【書評】「宅配がなくなる日」。任天堂スイッチもYoutubeも同時性解消がヒットのカギ⁉

宅配がなくなる日 同時性解消の社会論

本屋で表紙のタイトルに目がいった本書。

僕はAmazonのヘビーユーザーなので「なんで宅配がなくなるねん」と焦燥感にも似た気持ちでこの本を手に取りましたが、中身を読んでみると数々の示唆に富んだ発見があり感動したので、ここにその記録を記したいと思います。

 

宅配問題を解決するためのキー「同時性解消」とは

あなたがAmazonで何かしらの品物を注文すると、Amazonの倉庫からあなたの自宅まで宅配ドライバーが荷物を配達に来ます。この時、荷物を受け取るためには、宅配ドライバーと受取人であるあなたが、あなたの自宅の玄関という同じ空間に同じ時間に居合わせる必要があります。

このようにサービスの供給側と受け取り側が同じ時間や空間の共有を強いられることを「同時性」と呼び、本書では「同時性の解消」こそが宅配サービスのみならず、あらゆるサービス業の問題点を解決するキーであると主張されています

宅配における「同時性解消」の一手が宅配ボックスの設置です。宅配ボックスが設置されていれば、たとえ荷物の受取人が不在であったとしても、宅配ドライバーは宅配ボックスに荷物を収めておくことができます。そして、荷物の受取側も、自分の好きな時間に宅配ボックスから荷物を取り出すことができます。つまりサービスの供給側も受け取り側も同じ時間に同じ場所にいる必要はないので、同時性は解消されています。

近年では自宅のみならず、コンビニや駅などにも宅配ボックスの設置が進められており、利便性が高まっています。

Youtubeも同時性を解消している

僕が本書で「同時性」という概念を知った時、「同時性の解消」を達成していることで支持を得ているサービスが複数頭に思い浮かびました。

その一つが「Youtube」です。

従来の「テレビ」では、特定の番組の放送時間が明確に決まっていて、視聴者側は観たい番組の放送時間にテレビの前にいる必要がありました。しかし、Youtubeでは動画を提供する側のユーチューバーは自分の好きな時間に動画を撮影してYoutubeに投稿しておくことができ、視聴者側も自分の好きな時間にその動画にアクセスして動画を視聴することができます。つまり同時性が解消されているのです。

近年テレビの視聴率がダダ下がりしているようですが、視聴者に同時性を強いるサービスが衰退して、Youtubeのような同時性の解消を達成している動画コンテンツが実績を伸ばしてくのは当然の流れだと感じました。

無論、投入する製作費の多寡などで、視聴者に提供する動画のクオリティの高さはテレビがYoutubeを上回っていると思いますが、それもいずれ逆転するかもしれません。

任天堂スイッチは同時性を解消することで大ヒットにつながった⁉

もう一つ同時性の解消を達成しているコンテンツを考えてみます。それは「任天堂スイッチです」。

従来の据え置き型のゲームは、プレイする時にテレビ画面に接続する必要がありました。つまり、ある程度のまとまった時間をとって自宅のテレビの前に腰を据える必要があるという同時性を強いられていたのです。

翻って任天堂スイッチは皆さんご存知の通り、「TVモード」「テーブルモード」「携帯モード」と3つの形態で遊ぶことができます。自宅にいて時間に余裕がある時は、テレビにつないで大画面でゲームを楽しむことができますし、出張などで忙しい時は「携帯モード」あるいは「テーブルモード」で新幹線の移動時間や宿泊先のホテルでゲームを楽しむことができます。

任天堂スイッチは、ゲームをプレイする人の生活のシーンに合わせて柔軟にその形態を変えることで、据え置き型のクオリティを保ったまま携帯性を持たせスキマ時間でのゲームのプレイを可能としました。もはや据え置き型のゲームをプレイする時に自宅のテレビの前にいる必要は必ずしもなく、出先で進めたゲームのセーブデータの続きを、時間のある時に自宅のテレビの大画面の前で遊べる。これぞまさに同時性の解消でしょう。

これによってコアゲーマーのみならず、忙しいビジネスパーソンに対しても訴求力が高まり、現在の大ヒットにつながったと考えられます。

同時性の解消がすべてにおいて優れている訳ではない

本書では、同時性の解消がすべてのサービスにおいて優れている訳ではないことも述べられています。

例えば先述したテレビの例で挙げれば「スポーツ中継」は同時性を強いられるリアルタイム視聴にこそ醍醐味があります。来年はロシアでサッカーのワールドカップが開催されますが、僕の職場にはワールドカップの度に有給を取って家で生放送を観ている人がいます。興味のない人が「録画しておけばいいじゃないか」とのたまう事がありますが、笑止千万と言わざるをえません。

さらに、ロシアに直接出向いて、生で日本代表の試合を観ることは「場所」と「時間」の両方の同時性を強いられますが、その臨場感はテレビ中継ではまず味わえない迫力があることでしょう。

またYoutubeにおいても現在「ライブ配信」という、Youtuberがリアルタイムで視聴者に動画を配信するサービスがあります。もちろんこのライブ配信された動画も他の動画と同じくあとで視聴することができますが、人気ユーチューバーのライブ配信にはリアルタイムで多数のアクセスが集まります。

ライブ配信の醍醐味は、視聴者がYoutuberと同じ時間につながって、直接メッセージなどでコミュニケ―ションが取れることです。通常の動画にもコメント欄がありますが、人気ユーチューバーともなると、その一つ一つに返答することはまずありえません。もちろんライブ配信のコメントも全て返答されることはありませんが、他の視聴者が出した質問であっても、返答がリアルタイムで帰ってくることはファンにはたまらないものがあるでしょう。

まとめ

僕が今まで「便利だ」としか思っていなかった宅配ボックスの存在や、任天堂スイッチの携帯性について「同時性の解消」という明確な言葉で概念化できたのは、本書を読んだことでの大きな収穫でした。

このブログの趣旨は「生活を向上させるモノやサービスを紹介する」ことですが、同時性の解消は間違いなく生活の向上につながる概念です。今後ブログを運営する上での一つの指針にしたいと思います。

宅配がなくなる日 同時性解消の社会論

宅配がなくなる日 同時性解消の社会論