夢を追いかけて転職していった同期を見送った日

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先日、僕の同期が転職していきました。

聞くと、昔からずっと好きでやりたかったことを追いかけるために転職するとのこと。彼の性格はとても大人しく、胸に野心を秘めているようには見えないタイプでした。ですが、その彼が転職を決め、彼の送別会の終わりで話した挨拶があまりにも素晴らしかったので、この気持ちをずっと保存しておきたいと思い、今回記事にします。

会社でも極めて難度の高い業務に従事していた彼

彼とは同期なので、当然新卒で会社に入った時の新入社員研修でも同じ講義を受けていました。そして研修が終わり、同期はそれぞれの部署に配属されバラバラになり、僕と彼も遠く離れた勤務地にて社会人の第一歩を踏み出すことになりました。

それから数年が経ち、僕は最初の異動で本社の部署に異動になりました。そしてほどなくして、同期の彼も本社に異動してきたのです。しかも彼と僕は課は違うものの、同じ部に異動したので、近くの机で仕事をすることになりました。

同期の彼が異動してきた課は、全社の予算を管理する極めて難度の高い課でした。当然会社中から選りすぐりのエリート人材が配置され、そんな彼らでも残業時間が100時間にも及ぶような、過酷を極める課だったのです。そんな厳しい環境に異動してきた彼は、悪戦苦闘しながらも日々業務に勤しんでいました。

実はこの課には彼の2年後輩(つまり僕にとっても2年後輩)がいました。僕と同期もまだ「若年時」と呼ばれる年代であったので、その後輩は入社まだ数年しか経っていない新入社員に毛が生えた程度の存在でした。ただ、その彼はとてつもなく優秀な社員だったのです。

元々その課には優秀な人間が配属されているのですが、その後輩は経験は浅くとも「頭脳明晰」といった言葉では言い表せないほど頭の回転が速く、難度の高いその課の業務を早々と習得。多少応用の必要な問題に出くわしても臨機応変に対応できてしまい、彼の年次では考えられないほどの業務能力を発揮していました。

僕の同期も決して業務能力は低くないのですが、やはりその後輩にはかなわず、いつしかその後輩から業務を教えてもらうような立場になっていました。それだけでなく、僕の同期が電話対応で難儀している時、その後輩が電話を替わったとたん、ものの30秒で問題を解決して受話器を置いたという例も数多くありました。

その様子をはたから見ていて、きっと彼は辛いだろうなと思いました。本来なら先輩で指導をする立場である彼が、後輩から日々フォローを受けて業務を行っていくのは相当なストレスだったと思います。それでもなんとか同期の彼は1年間は業務を頑張っていました。

突然の転職宣言

ある日、僕が自分の課のミーティングで会議室に入ると、そこには同期の姿がありました。その日のミーティングは、彼には関係のないものだったので「どうしたのかな」と思っていました。ですが、僕の課の課長はどうやら訳を知っているような様子。

やがて会議室に僕の課の人間が全員集まると、同期の彼はおもむろに立ち上がり、こう言いました。

私事ではありますが、転職することになりました。

突然の宣言に驚く僕でしたが、どうやら同期は既に自分の課の課長や同僚には転職することを話していたようなのです。そしていよいよ退社の日も近づいてきたので、この日同じ部署の別の課の人間にも退職の件を伝えたということでした。

僕は彼が転職をすると知った時、「ああ、やっぱり後輩にフォローされながら業務をするのは辛かったんだな……」と、彼が逃げで転職するなどと勝手に思い込んで感傷に浸っていました。ですが、これが僕のとんでもない思い違いだったことを、彼の送別会の日に知ることとなります。

送別会で彼の思いを知る

あっという間に同期の最終出社日になりました。この日の退勤後は彼の送別会が予定されています。彼はオフィスを出る最後の時まで、周りの人にお礼の品を渡しながらあいさつをしていました。

やがて送別会の会場となる居酒屋に関係者が集まり、彼の送別会が始まりました。僕は彼の近くに座り、色々と話しを聞きました。どうやら彼はテレビ関係の仕事に転職するようでした。周りの人たちが色々とテレビ業界のことを彼に質問し、その質問に答えていく彼の目はとても輝いて見えました。

この時点で僕は「逃げの退職ではないのかもしれない」と思い始めました。

そして送別会も終わりの時間に近づき、最後に彼がみんなにお別れの挨拶をすることになりました。彼は、大きな声でこういったのです。

「僕はこの会社が大好きで、本当は皆さんと一緒にずっと仕事をしていきたいと思っていました! でも、本当に幸せな人生が何かって考えた時、僕にとってそれは自分が心から好きな事を追いかける人生だと思いました! だから僕はその一歩を踏み出します!」

彼の全ての言葉を書くととても長くなってしまうので割愛しますが、彼の言葉には周りの人間への感謝と、自分が進もうとしている道への覚悟が確かに宿っていました。

すると驚くべきことが起こりました。

その居酒屋で宴会をしていたまったく関係のない別のグループの人たちが、話しを止めこちらを振り返って僕の同期の挨拶を真剣に聞いているのです。

そして彼の挨拶が終わると、僕の会社の人間だけでなく、そのグループの人たちまでもが拍手喝采を彼に浴びせました。

「観客増えとるやないか!(笑)」

僕の会社の誰かが茶化して言うと、ドッと笑いが起きました。拍手と笑いの中、恐縮して周りのグループにも頭を下げる同期。この時のなんともいえない一体感を僕は忘れられません。

居酒屋に居たまったく無関係の人々を振り向かせた彼のあいさつは、特別な力を持っていたのだと思います。それは、彼が自分の胸に秘めた思いを全力を持って伝えようとしたからこそです。もし彼が本心では逃げで転職し、送別会の挨拶で適当にお茶を濁すために考えた言葉では、周りのグループが振り返って彼の話を聞くなんてことは到底起こりえなかったことでしょう。

ようやく僕は彼が逃げなどではなく、自分の夢を追いかけるために転職の道を選んだのだということを心から確信しました。居酒屋を出た後、僕はこの感動を彼に伝えたくて、彼に激励の言葉をかけた後固い握手を交わしました。

この日のことを、僕は生涯忘れることはないでしょう。

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まとめ

本当は別にやりたいことがあり、それとは無関係の会社で我慢して働いている人は日本にたくさんいるのだと思います。そしてその中の少なくない数の人々が、最後まで一歩を踏み出す勇気が持てず、年老いていったことでしょう。

僕の同期も転職を決めるまでに様々な葛藤があったと思います。ですが、送別会の日に見た彼の表情は葛藤を乗り越え、覚悟を決めて己の道に進むこと選んだ最高にカッコイイ男の顔でした。

僕は、自分の大好きな道に向かって日々努力し続けている人を心の底から尊敬しています。当然、この同期もその中の一人になりました。そして僕もそんな彼らに負けないよう、精一杯自分の人生を生き抜いていこうと思います。 

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