一人暮らしのマンションで訪問セールスに捕まった話をする

初めて一人暮らしを始めた方が直面する試練の一つが「訪問セールス」の対処です。

いわゆる、飛び込みで家に押し掛けてきて保険やら浄水器やらを売り込まれるアレです。

営業マンの中にも善良な人はいるのでしょうが、彼らも商売なので多少強引に迫ったり、中には詐欺まがいの行いをする輩もいます。

社会経験を積んでいけば、やがて軽々とあしらうことができるようになりますが、まだ社会に出たばかりの若者の中には、気が弱かったり営業マンの強引さに押し負けて望まない契約をしてしまう方もいます。

今回は僕の経験も交えて、彼らの対処法について語りたいと思います。

オートロックのマンションでも安心できない

最近のマンションでは、共用エントランスにオートロックが採用されていて、そもそも直接ドアの前まで来られなくなっていることも多いです。ですが、だからといって油断はできません。

僕が住んでいるマンションも共用エントランスにオートロックが採用されているのですが、僕は訪問販売員の思わぬ方法によって捕まってしまいました。

ある日僕が仕事から自分のマンションに戻ってくると、共用エントランスのインターホンの前に人がいるのが見えました。別にそれ自体は、郵便の配達員や住居人の家族などが使うことがあるので、特段気にしていませんでした。ですが、その人物は僕が入ってくるのを見るなりいきなり話しかけてきたのです。

インターネット通信の訪問販売員に捕まる

この時点でかなりびっくりしたのですが、僕は反射的に「はい」と答えてしまいました。結論から言うと、彼はインターネット通信のセールスだったのですが、ここから彼の営業が始まりました。

「実はこちらのマンションに住まれている皆さんにお話しさせていただいているのですが、このマンションのネット契約は~」

本来はこの時点でシカトしてさっさと自分の部屋に戻ってしまえばよかったのです。ですが、当時の僕の未熟さからか、堂々と「シカト」する度胸がありませんでした。

という訳で、結局セールスの話を色々と聞いてしまったのですが、後から考えると彼の営業トークには悪い意味での話術というかテクニックが至るところに隠されていました。

個人向け営業だと思わせない

上述したように、このセールスは「こちらのマンションに住まれている皆さんに」という言葉で口火を切りました。営業内容の詳細は省きますが、話を聴くと僕個人宛ての営業ではなく、このマンション全体のネット契約に関するお話という風に受け取られるよう話していたように感じます。

よく郵便受けに「水道・ガス点検のご案内」という紙が入っていますが、あれと同じように「このマンションの管理会社と専属契約をしているネット回線業者の、プラン切り替えのご案内」という感じです。

もちろんセールスはこんな言い方はしていませんし、そんな事実も一切ないのですが、さも「このマンション全体のネット契約が新プランに切り替わるので、住人の一人であるあなたもそちらに切り替わるのは当然ですよ?」的な口ぶりで話すのです。

このような内容を言葉巧みに話され、単細胞な僕は「あ、そうなんですか。じゃあ切り替えた方が良さそうですね」と口走ってしまいました。

するとセールスはすぐに「あ、そうされますか。ではこちらにお名前だけ書いていただけますかね」と契約書を取り出しました。ここらへんも実に巧みで、セールスは一度も「契約書」や「サイン」という言葉を使わず、代わりに「こちらに(契約書に)」「お名前だけ(サインを)いただけますかね」と最後まで詰めを怠らない慎重さを見せます。

「言外に仄めかす」テクニック

ですが僕も契約書に名前を書く段になって、さすがに(もう少し色々と確認してからの方がいいんじゃ……)と思いとどまりました。そしてセールスに対して「そちらの資料を下さい。家に帰ってそれを読んでから考えますので」と伝えました(実際にはここまでしっかりとした言葉で話せず、声が震えていたと思います)。

するとセールスは「説明が不足しているなら今ここで質問にお答えしますよ。どの部分でしょうか」と返してきたのです。それに対して僕は「いや、こういう契約書に簡単に名前とか書きたくないんです。家に帰って考えますから……っ」と震えながら答えます。

するとセールスは驚いたような顔で「えっ……それってどういう……」と呟きました。その表情はさも「簡単に名前書きたくないってどういう意味です? 私が悪徳業者か何かだと思っていませんよね?」と言外に仄めかす顔でした。今まで普通に話していた私を悪人と思っているのか? と、相手に罪悪感を持たせる作戦です。

このセールスの反応に対して、僕は演技だと分かっていながらもかなり動揺していました。しかし、同時に(俺が若造だと思って舐めやがって!)と怒りもわいてきたのです。

そして次の瞬間に僕は「分かりました、もういいです」と言って、足早にマンションの共用エントランスから中に入っていきました。

最後まで食い下がるセールス

カモが逃げると焦った様子のセールスでしたが、僕に付いてエントランスから中には入っては来ずに(恐らく同意なく入ってはいけないという法律があるのでしょう)外から色々と叫んでいました。

「どうしたんですか~! 何か誤解されてると思いますが、困ると思いますよ~⁉」

 それでも一切振り向かないでいると、セールスは独り言のように呟きます。

「あらら……どうしようかな……」

この「あらら……どうしようかな……」という言葉にも、言外に仄めかす言葉がありました。それはつまり「普通に決まり事を伝えに来ただけなのに、勝手に何か勘違いしたマンションの住人が行ってしまったぞ。どうすりゃいいんだ俺は……」ということです。

終始このセールスは表情や仕草によって「言外に仄めかす」ことが巧く、それによって相手に罪悪感や不安感を抱かせる戦術に長けていました。

僕は逃げ切ることができましたが、仕事終わりの貴重な自由時間の30分ほどを奪われ、おまけに精神も疲弊させられました。この事にかなり怒りを感じていた僕は、自分の部屋に戻るとすぐにマンションの管理人に今のセールスのことを「通報」しました。

そもそも最初に企業名と氏名を名乗らないのは違法

さて、このセールスに会ってから色々と調べたのですが、彼の営業方法はかなり問題のあるものでした。

まず、そもそも最初に僕に話しかけた時点で企業名と名前を名乗らないのは違法なのです。「氏名などの明示義務(第3条)」で規定されていますが、訪問販売員は客の元に訪れた際の第一声で、以下の内容を伝えなければなりません。

  • 企業名や氏名
  • 訪問目的(〇〇の販売に来ました、等)
  • 商品・サービスの種類

僕のところに来たセールスは、第一声どころか最初から最後まで企業名はおろか名前すら名乗りませんでした。これらの内容を最初に伝えたら、高確率で客からあしらわれるのだと思いますが、知ったこっちゃありません。

この他にも、このセールスの営業トークには色々と誤解を招く発言が数多くあったと感じるので、個人的には悪徳業者だったと思わずにはいられません。

最善の処置は「無視」

さて、こういった悪徳セールスに対する最善の処置は無視することです。

基本的にはアポなしの訪問者はインターホンに出なければよいですが、僕のようにマンションの共用エントランスで話かけられてしまったら、営業だと気づいた瞬間に立ち去りましょう。

若いうちは、例えセールス相手だとしても会話の途中で無言で立ち去るというのは中々に勇気のいることです。実際に僕もできませんでした。

ですが考えてみてください。そもそも本当にほしい商品だったら、こちらから買いに出向くのです。向こうから売りに来る商品なんて、99%要らない物のはずです。にも拘わらず勝手にものを売りに来る相手に対して、話の途中だろうが何だろうが、礼儀を通す必要などありません。

また、時々こういったセールスに対して怒鳴りつけたりして威嚇する消費者もいますが、賢明ではないと思います。そもそも体力の無駄ですし、相手が悪徳業者で胸ポケットにレコーダーなんかを忍ばせていたら、逆に脅迫の証拠だとして利用されてしまうかもしれません。

以上の理由からも、やはり無視が一番と言えるでしょう。